PDD 広汎性発達障害
PDD - 配慮と手立て
配慮
できたことをほめる
心の理論課題でも取り上げられていますが、「他者の気持ちが理解できない」ということは、その場でどのような言動が望ましいのかわからないということにも繋がります。数々の失敗体験の積み重ねの中、自尊心の低下や自信喪失といった状態を引き起こすことで、無気力やうつ状態など二次的障害にもなり兼ねません。出来ないことをけなしたり怒ったりするのではなく、出来ることを「褒める」ことで自信になり、また成功体験を増やしてあげることもPDD児への配慮の 1つとも言えるでしょう。
「良いこと」と「悪いこと」との違いを明確に
他者の表情を見て心情理解することが苦手なため、口頭で「してもいいよ」「いけません」などとどれだけ説明しても、表情が曖昧であればその真意は伝わりません。伝わりやすい方法はさまざまですが、それでも「良いこと」「悪いこと」がわかりやすいように多少表情を大げさに変える方がよいでしょう。
見通しを持たせる「構造化」
想像力の欠如や認知理解の未熟さという特徴からもわかるように、見通しが持てない、あるいは時間の概念に弱いPDD児も多いです。その日その場で予定が変わってしまうことで大きな不安を抱え、混乱してしまいます。また、耳から聞いた指示よりも、図や絵で示した方がわかりやすいという特性も見られます。目から得る情報が乱雑では意味がありませんが、図や絵での提示、統制された環境の中で指示が理解できるといった場面もたくさん見られます。しなければならないこと、してほしいことをわかりやすく「構造化」していくことも有効です。
三項関係を見直し「共感」してあげる
PDD 児は社会性の問題やコミュニケーションすることにも困難さを抱えています。これは突然起こるものではなく、乳児期の頃にも兆候が見られます。あやしても視線が合わない、呼びかけても反応しない、言葉が出てこないなどといった、育てる側にとって悲しい場面も多々見られるのではないでしょうか。
自分と対象(人・物)との二項関係は成立しているものの、コミュニケーションの基本とも言える、自分と他者と対象との「三項関係」が築けているか、見直すことはとても重要です。他者とのアイコンタクトから始まり、他者が目を向けた方へ追随し、再び視線を合わす、といった一連の動作の中で言葉を交わすことは日常生活の中で何気なく繰り返されています。
じ物を見て、相手が何を感じているのかを言葉にして返すことの中には、「共感」しているというメッセージも含まれています。コミュニケーションを促す上で、この「三項関係」と「共感」は重要な役割を担っています。
「対人関係」に困難をもつ子どもへの手立て
<友達づきあいの苦手な子とは…>
- 色々なことを話すが、その時の状況や相手の感情・立場が理解できない。
- 友達と仲良くしたいという気持ちはあるが、友達関係をうまく築けずにいる。
- 友達のそばにはいるが一人で遊んでいる。
- 仲の良い友達がいない。他の子どもたちからいじめられることがある。
<背景として考えられること>
- 対人関係(情緒面、共感的理解)の弱さがある。
- 相手の意図を理解できなかったり、相手の表情から感情を読みとりにかったりするため、相手と交わる楽しさが得にくいことが多い。
<支援へのヒント>
○友達との関係を広げる。
- 遊びに入れるように担任から働きかけていく。(追いかけっこなど、ルールのやさしい遊びから始める)
- グループのメンバー構成に配慮する。
- 本人の得意な遊びを取り上げる。
- 遊びを振り返り、楽しかったこと困ったことを整理する。
○トラブルへの対処
- わからないときは、相手に尋ね直すことを教える。
- 困ったときは、先生を呼びに来ることを教えておく。
- トラブルが起こったとき、振り返ってどうすればよかったのか、一緒に考える。
- 子どもの言いたいことや気持ちをことばで表してあげる。
- 相手の振る舞いや顔の表情(目や口元)などから、相手の気持ちに気づくことも教える。
「コミュニケーション」に困難をもつ子どもへの手立て
<コミュニケーションに偏りのある子とは…>
- 嫌みや冗談を言われても何のことなのかわからず、言葉通り・字義通りに受け止めてしまう。
- その場で言ってはいけないことを汲みとることができずに、思ったことを言ってしまう。
- 会話の仕方が形式的で、抑揚なく話したり、間合いがとれなかったりする。
- 独特な声で話すことがある。(一本調子、甲高いなど)
- 話が一方的で、相手とうまく会話を進めることが難しい。
- 球技やゲームをするとき、仲間と協力することに考えが及ばない。
- 会話の時に身振りやジェスチャーをうまく使えない。
- 聞かれている意味が理解できずに、何回も聞き返したり、たくさんのことを伝えられても聞き取れない場合もある。
<背景として考えられること>
- 話し言葉に大きな遅れはないものの、相手との話からその意味や意図することに共感できず、会話がうまく進まない。
- 相手の立場に立って状況が捉えられない。
<支援へのヒント>
○共感性への支援
- その子の受けた色々な感情体験を言葉にして伝えることから始める。
○理解への支援
- 「もうちょっとがんばろう」よりも「あと○問しよう。○○までしよう」など具体的な目標・内容で伝える。
- 話し言葉だけでなく、文字やイラストを併用して伝える。
- 順序立てて、簡単明瞭に話すように促す。
- 禁止の言い方でなく、肯定的な言い方で伝える。(「廊下を走ってはいけない」ではなく「廊下を歩きます」など)
○伝達・表現への支援
- 会話のルールを教えて、練習する。(相手が話している間は、相手に話しかけてはいけないなど)
「こだわり」が気になる子どもへの手立て
<特定のものにこだわる子とは…>
- 限定された興味だけに熱中したり、また特定のものに強い関心や不安を持っている。
- 非常に得意なことがある一方で、極端に苦手なことがある。
- 自分なりの独特な日課や手順があり、変更や変化を嫌がる。
- 特定の分野の知識を蓄えているが、丸暗記であり、意味をしっかりと理解していない。
- 空想の世界(ファンタジー)で遊ぶことがあり、現実との切り替えが難しい場合がある。
<背景として考えられること>
- 相手や周囲との間でおこるさまざまなことに想像力を働かせることができない。
- 相手に合わせて柔軟に思考したり行動したりすることがうまくできかったり、同じ行為や思考を繰り返し、特定のものへのこだわりがみれたりしやすい。
<支援へのヒント>
- その子の得意なことを生かしたり発表する機会を設けたりして、周りの子のその子への評価を高め、その子の自尊心を育てる工夫をする。
- 普段から活動内容を日課表などで予告し、見通しを持ちやすくしておく。
- 急な変更はできるだけ避け、やむを得ず変更する場合は、言葉だけでなくて、日課表の書き換えなど具体的に示し、必要に応じて内容の解説をする。
- 空想の世界は否定せず、好きな作業に取りかかるなどの方法で、気持ちの切り替えができるきっかけをつくる。
- 空想の世界に入るときは、現実場面に興味関心が持てないときが多いことから、現実場面での活動内容について吟味する。
- こだわりを「やめさせる」ことに「こだわりすぎない」ことも大切である。
その他にも…
<その他の気になる行動>
- 独特の表情や姿勢をしていることがある。
- 動作やジェスチャーが不器用で、ぎこちないことがある。
- チック症状など、無意識に顔や体を動かしたり、声を発したりすることがある。
- 感覚(聴覚・視覚・味覚・触覚など)が過敏であったり、逆に鈍感であったりする。
- ストレスが強くなると、ひとりごとなど場にそぐわない行動をすることがある。(かつて経験した嫌な体験が突然思い起こされる「フラッシュバック」により、不安や不機嫌になったり、感情が不安定になってパニックになったりする)
<背景として考えられること>
- 感覚刺激をうまく処理できない(周囲の物音や見えるものなどに対して、騒がしく感じたりする。大勢の人の中にいることを苦痛に思いやすい)
<支援へのヒント>
- 感覚や刺激について好きなものや嫌いなものの情報を、事前に集めておく。
- 不適切な行動の背景は、感覚過敏やフラッシュバックなどが関与していないか探る。(不適応行動は、周囲の不適切な対応への反応の場合もある)
○感覚過敏に対して
- 苦手な感覚刺激への対処を教えたり、排除したりする。(ひとりになれる空間、静かな場所、お気に入りのものなどを準備するなど)
- 本人の好きな活動に誘う。
○フラッシュバックに対して
- 興奮したり、不安が強いときには、場面や話題を変えたり、安心できるものや活動を提供したりする。
○不適応な行動に対して
- あいまいな言葉かけや過度の関わりをやめる。
- 子どものペースに合わせる。
- 感覚過敏に伴う食事、歯磨き、手洗い、着替えなどにおける不適応行動は、子どもの様子に合わせて徐々に和らげていく。